月夜見 
残夏のころ」その後 編

     “昨日のお話?”


何だかんだと色んなことがあった今年も、
残すところ あと2カ月と相なって。
年賀状の売り出しも始まり、
お歳暮の受け付けや、
おせち料理やクリスマスケーキの予約なんて、
とっくの昔に始まっているとか言うけれど。
その割に、なかなか秋らしい気候が安定せず。
お年頃のお姉さんたちとしては、
秋物とやらを身にまとう時期を計りかねてしまうのも、
何だか例年のこととなりつつあって。
それでもまま、あちこちの木々は赤や黄色に色づいてもいるし、
忘れちゃいけない、この時期と言えばの様々な実り、
山の幸、里の幸、海の幸それぞれから、
豊かな御馳走の結実が齎
(もたら)され。
青物野菜は相変わらず底値の変動が微妙に不安定ながら、
今年はサンマやタラが豊漁だそうだとか、
みかんも去年が裏年だったんで今年は沢山収穫出来そうだとか、
そんなこんなと美味しい便りも聞かれる今日この頃。

 「さぁさ、安いよ安いよ。
  ゴボウに自然薯、レンコンが旬だ。
  リンゴもそろそろ つがるからフジへと入れ替えだ。」

シンプルなTシャツにGパンというざっかけない姿。
店の名前が斜めがけにプリントされた、
帆布のエプロンをその上へまとった若いのが、
パンパンと手慣れた手打ちで人の注意を集めつつ、
よく通る伸びやかなお声で、
今日の売り出しやお薦めを、淀みない口上として並べ上げれば、

 「あら、栗も出ているのね。」

顔なじみの奥さんが、
平台へ旬のものを並べた店頭で立ち止まり、
ネットに はち切れそうなほど詰め込まれた、
色よく つややかな栗の実の袋を手に取って見せる。
それへとすかさず愛想を振り撒いた売り子のお兄さん、

 「栗ご飯に渋皮煮、
  甘露煮にして芋のきんとんに入れても美味しいよ♪」
 「ああそうそう、それもあったわねぇ。」

人懐っこい笑顔にほだされたものか、
そちらからも朗らかに笑顔を返した若奥様。
でも、この厚皮を剥くのがなかなか骨でというお声へは、

 「一晩水に浸けとけば、ずんと柔らかくなるよ?」

まずは根元の角のところで切り口を作って、
そこから包丁の刃を削ぐように入れてくんだよ?
よく切れる包丁でやんないと危ないからね…と注意してから。
あと、切れ目入れてオーブントースターで煎ると、
ぱかんって割れるって話も聞くよ?…と。
まだお若いのに、さすがは専門家というところか、
耳寄りなお話を一席…と振ることが出来るのがなかなかのもの。
じゃあ2袋いただこうかしらと、
機嫌よくお買い上げいただいたのへ、
はい、毎度あり♪と応じるお声も軽やかに。
にっこにこ笑顔の大盤振る舞いをし続けの、
青果部門、菜もの&売り出し商品担当、
奥様がたのアイドル売り子・ルフィくんが、
ありがとぉvvと目映い笑顔まで振り向けての、
そりゃあご丁寧に見送ってるのへ、

 「日頃からも愛想のいい子じゃああるが。」
 「昨日あたりに何かあったな、ありゃ。」
 「だよな、やっぱり。」

高校生とは思えない童顔での、
お客への愛想の大盤振る舞いは、ままいつものことだが。
お客様が途切れる暇間になっても、

 「  ………。////////」

一体 何を思い出すのやら。
すぐの居廻りという周囲には誰も居ないし、
どこと言って見つめてもなかったお顔が、
不意に にひゃりとほころんだり。
自分の担当するブースの整頓をする足取りも軽いめで、
スキップの出来損ないみたいなツーステップ踏んでは
何度も行ったり来たりしてみたり。
あまりに判りやすいご機嫌ぶりなのへは、
周囲の大人の皆様も、
さすがにあっさり気づいたようで。

 『? ああ、あれな。』

店舗スペースから少し離れた、搬入口付近。
事務所とそこだけが喫煙出来るコーナーとされているがため、
探しているならまずはそこへ行けと言われているたまり場で。
やはり紙巻きを咥えていた、
一見シャープな恐持て、
だがだが、目端が利いて気も利く、
それは頼もしい副店長に尋ねれば、

 『俺も詳しいところまでは知らんのだが、
  昨日は奴の学校、学園祭だったっていうじゃないか。』

知らないと言いつつ、絶妙なヒントを放ってくれて。
しかもしかも、

 「何すか、それ。」

通りすがった搬入班の背ぃ高ノッポなお兄さんが、
スケートの真似か、左右の足を交互にすべらせ、
す〜いすいと進む真似をしていた年下の先輩さんへ
いかにも不意打ちで声を掛けたもんだから。

 「あ、や、えと、べべべべ、別にだな。///////」

さすがに見られては恥ずかしい素振りだったのか、
あわわと慌てて見せるルフィではあるものの、

 「昨日はお世話になりました。」

あらたまったような言いようをするゾロだったのへは、

 「あに言ってるかな。」

誘ったのは俺なんだし、
やたらとカメラ向けて来てた ヤな奴ンこと
追っ払ってくれたのは助かったしと。
にゃは〜っと嬉しそうに微笑う屈託のなさに、

 「そ、そうすか。////////」

だったらあのその、良かったですがと。
今度は彼の側が、少々どぎまぎして見せるのへ。
おやおや?
これまではどちらかといや淡々としていたと言うか、
折り目正しい口調での、
型通りの接し方しかしないでいたよな彼だったのに。
何があったか知らないが、
応じたお声の語尾が すぼみつつの、
ほのかに照れてるような気色が感じられる態度も チラリと覗いており。

 「けど、ローラーブレード上手でしたよね。」
 「へへん♪ ああいうのは得意なんだ、俺。」

小学校でも一輪車を一番に乗りこなせるようになったしと、
バランスを取る真似か、
ひょろりとした両腕を左右に広げて、
おっとっとと揺れる真似をして見せ、

 「武道クラブ合同の模擬店は毎年恒例の出し物だし。
  前庭グラウンドの廻りは、ほとんどが石畳で平らだから、
  あれ履いて駆け回る方が効率的なんだな。」

ルフィ少年が通う高校では、
ベックマンさんの言ったように、
昨日が恒例の学園祭、一般公開日だったらしく。
在校生からの招待が前提のそこへと、
誘われたのでと素直に足を運んだゾロ青年だったようで。

 『お、いらっしゃいませだぞ♪』

ここの担当だぞとの説明を受けていたのは、
校舎前庭いっぱいに広がっていたオープンカフェで。
それを縁取る周縁の石畳を、
がーがーと勢いよくも、それでも一応はなめらかに、
トレイを掲げて滑走して来たのが、
フリルつきのカチューシャも愛らしく、
膝丈のスカートと純白のエプロンも優雅な、
メイド姿の小柄な先輩。
フレアたっぷりの濃色スカートは、
風を切って駆けるとなかなか愛らしいひるがえりようをするらしく。

 『あの…。』

確か共学ですよねとか、
柔道部にも剣道部にも女子の人いましたよねとか、
ついのこととて、訊きたいとすることが
二、三 あったゾロだったようだが。

 『ルフィ〜、か〜わい〜いvv』
 『うっせぇなっ、かわいいとか言うなっ!////////』

本人は罸ゲーム感覚なのかと思や、
声をかけて来た女生徒ら(ちなみに、そちらは道着の袴姿)には
一応 がおおっと怒鳴っていたものの、
お顔に乗ってた表情はあんまり怒っているようでもなく。
それへと首を傾げてしまった、
GパンにTシャツとオーバーシャツの重ね着という
やや砕けた恰好の年上の後輩さんへ、

 『これって“コスプレ”なんだvv』
 『……そうなんすか。』

何になるかは、みんなでくじ引きひいて決めたんだ。
ただ、メイドくじがやたら多かったんで、
3年のフランキーとか…あ、柔道部の主将なんだけどサ。
こぉ〜んな大きい奴だから、凄げぇ違和くて笑えるんだけどと、
それは楽しげに語る姿がどれほど朗らかで愛らしいか、
ご当人はあんまり判ってなかったようで。
あっはっはと大きなお口を開けての大笑いはいつもと同じだが、
足元が微妙にバランスのいる靴なの、うっかり忘れたか、
おっとっととよろめいたのを、

 「おっと…。」

ぱふり、たやすく受け止めてくれたのが、
程よい堅さも頼もしい、
それは男らしくも屈強な、後輩さんの懐ろだったので。

 「あ…あはははっ//////
  えとあの、ごごご、ごめんごめん。////////」
 「いや、あの、///////
  別に ル、せ先輩が謝ることじゃあ…。///////」

 「(うあ、凄っげぇ頼もしい〜vv)
  ちょっとちゃっと離れるからな。
  ……って、あわわっ/////」

 「(うあ、なんか凄っげぇ柔らけぇ…)
  大丈夫すか? ゆっくり落ち着いて…。//////」

メイドさんが慌てて持ち直そうとすればするほど足元不安になり、
それをのっぽの後輩さんが再び受け止め直すという。
半端なラブコメも真っ青な(おいおい)困った状況に照れてた二人へ。
周囲の一部からすれば、あの野郎上手いコトやりおってという傾向の、
鋭い羨望の眼差しが飛んで来るわ。
はたまた、
ルフィちゃんたらあんなイケメンをいつの間にという、
別ベクトルの岡焼き視線も届きかねぬわと。
なかなか賑やかだったらしいところまでを、
お店の皆さんが共通の情報として聞き届けることとなるのは
交替制のお昼休みを過ぎてから。
それまでのあと数時間ほどは、
何なに、何かあったのか あの二人と、
大人の皆様、せいぜい気を揉んでくださいませねと。
街路樹もどきの柿の木の梢に取りこぼされた、
木守のための橙色の実が、
お空の上から見下ろすお天道様みたいに笑ってたそうな。






   〜Fine〜  2011.11.03.


  *書いたは書いたんですが、UPが遅れてすいません。
   近畿地方は昨日の祭日はあいにくの曇天でしたが、
   それを盛り返せとばかり、今日は朝からいいお天気で。
   こんな中での学園祭は、
   さぞかし楽しい催しとなったんだろうなと思われますvv
   ゾロくん、
   ルフィさんのガッコにもお顔をが広まりつつあるようで。
   家庭科部所属とかいう、
   ややこしい“保護者代理”とか
   出て来なきゃいいんですけれどもね。
(大笑)

ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv

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